空よりも高く 海よりも深く
「最近は精霊士たちも召喚が出来るようになった。これで復興も進むはずだ」

「そうか、それは良かった。しかし、精霊を召喚出来なくなるとは想定外だった。もし、精霊がいないときにまた魔族が群れで攻め込んでくるようなことがあれば……」

「その対策も必要だな」

「ああ、そのことで先程アイザック将軍と少し話をしたんだ。だが……私は、今は軍よりも備えの方に予算を使いたくてな……」

「備え?」

「秋の収穫はゼロに等しい。ある程度の備蓄はあるが、もしこれ以上の災害が起これば、全国民を賄うほどの備えが足りない。それと、今まで精霊の力に頼りすぎていたことも問題だ。私たち人間の力だけで乗り越えられるだけの防衛力が欲しい。街にいくつかシェルターを建設してはどうかと考えているのだ」

「災害用にか」

「普段は食料の備蓄倉庫にして、災害や魔族の襲撃時には避難場所として使う。……そちらに予算を割くと、軍へ回せなくなるから……そこがまた、悩みどころなんだが」

「厳しいな。隣国も同じような状況だし。いくつかの国で食糧難による暴動が起きているとも聞く。食料確保は優先事項だろう」

「ああ。今はそれが我が国に飛び火してこないことを祈るしかないが……そうなると軍備拡張も必須だ。……しばらく民には苦労を強いることになるかもしれない……」

「軍備増強ならばこちらも協力出来る。ギルドの入隊者を募り、人材育成に力を入れよう。精霊士や魔銃士にも近接戦闘訓練を必修化し、精霊の力に頼らない戦闘も視野に入れる。国防軍への指導も考えよう。こう言ってはなんだが……あいつら、ヘタレだ。実戦経験がなさすぎる。アイザック将軍と話をつけてくれんか」

「う、うむ……民間のギルドが軍に介入するとなると、色々とうるさい連中がいて大変なのだが……」

「そんなことを言っているから先の戦も後手に回ったのだ。速やかに連携を取れるよう、協議していく必要がある」

「そうだな……。アリア、随分と押してくるな?」

「私は今度執行部に移動になるんだ。ガンガン口出しして改革してやるぞ」

「そうなのか。……アリアはずっと現場で戦うものかと思っていたよ」

「私もそう思っていたがな」

「では、家族との時間も今までより作れるようになるのではないか。息子も寂しい思いをしていただろう」

「そうだな、そこは良い部分だ。……ああ、そうだ」

 アリアはここへ来た本来の目的を思い出す。


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