空よりも高く 海よりも深く
「新しく即位されたカイン陛下は、リディアーナ殿下を追い詰めるつもりはない、のだな」
「本心では、ですが」
「……私は惑星王よりこの土地を任されている立場だ。神より授かった土地に生きる人々が、平和に暮らせる地を創らねばならない」
「はい、分かっています」
「この地に生きる者たち、そしてこの地に救いを求めてきた者たちを追い出すことは、惑星王(かみ)のご意思に逆らうことになるだろう」
「では……!」
「だが、駄目だ」
クラウス王は厳しい口調で言い放った。
「リディアーナ殿下を匿うことは出来ん。例えそれが惑星王のご意思でも。我が国は……星府軍と対敵するような火種を撒くわけにはいかん。……分かってくれるな?」
アリアはグッと唇を噛み締めた。そして深く項垂れる。
クラウス王の判断は正しい。復興途中のこの国が背負うには、あまりにも大きすぎる問題だ。
しばらく沈黙が訪れる。あたたかい日差しの中渡っていく冷たい風が、アリアとクラウス王の間をすり抜けていく。
「……さて」
クラウス王が芝生の上に落ちたカップを拾い上げ、軽やかな声で沈黙を破った。
「君の息子が助けたという、少女の話だが」
ほんの少しの違和感に、アリアは深く項垂れていた頭を僅かに上げた。
「アリアの娘として育てるというのなら、私に口を挟む権限はないよ。役場に届ければ数日中に手続きが完了するだろう。大事に育ててやるといい」
アリアはクラウス王が何を言っているのか分からず、そっとその顔を伺い見た。
王は優しく微笑んでいた。
「“災害によって親を亡くした哀れな娘”なのだろう? 私もその娘がしあわせになることを祈ろう。いや、その娘ばかりでない。この災害で親を亡くしたすべての子どもが。子を亡くした親が。親しいものを亡くした者が。皆、心穏やかになれる日を目指し、私も王としての役目を果たそうと思う」
「クラウス、王……」
「アリアよ。君も私に力を貸してくれるな?」
僅かな間、アリアは深海色の瞳を見開き、クラウス王を見つめていた。
王はこう言ったのだ。
皇女がここにいることは聞かなかった。ただ、息子が助けた哀れな娘を救いたいというのならそうしろと。……それを許すと。
アリアはベンチから立ち上がり、ぐっと涙を堪えながら敬礼をした。
「はっ、クラウス王! この命、いつまでも貴方のために!」
そう言ったら、クラウス王は笑った。
「アリアの命はアリアと、そしてその家族のものだ。……大事にな?」
アリアはクラウス王の言葉を胸の奥で噛み締めた。
そして自分が命を捧げる相手は、やはりこの王であると。
この王のために死のうと、決意した。
「本心では、ですが」
「……私は惑星王よりこの土地を任されている立場だ。神より授かった土地に生きる人々が、平和に暮らせる地を創らねばならない」
「はい、分かっています」
「この地に生きる者たち、そしてこの地に救いを求めてきた者たちを追い出すことは、惑星王(かみ)のご意思に逆らうことになるだろう」
「では……!」
「だが、駄目だ」
クラウス王は厳しい口調で言い放った。
「リディアーナ殿下を匿うことは出来ん。例えそれが惑星王のご意思でも。我が国は……星府軍と対敵するような火種を撒くわけにはいかん。……分かってくれるな?」
アリアはグッと唇を噛み締めた。そして深く項垂れる。
クラウス王の判断は正しい。復興途中のこの国が背負うには、あまりにも大きすぎる問題だ。
しばらく沈黙が訪れる。あたたかい日差しの中渡っていく冷たい風が、アリアとクラウス王の間をすり抜けていく。
「……さて」
クラウス王が芝生の上に落ちたカップを拾い上げ、軽やかな声で沈黙を破った。
「君の息子が助けたという、少女の話だが」
ほんの少しの違和感に、アリアは深く項垂れていた頭を僅かに上げた。
「アリアの娘として育てるというのなら、私に口を挟む権限はないよ。役場に届ければ数日中に手続きが完了するだろう。大事に育ててやるといい」
アリアはクラウス王が何を言っているのか分からず、そっとその顔を伺い見た。
王は優しく微笑んでいた。
「“災害によって親を亡くした哀れな娘”なのだろう? 私もその娘がしあわせになることを祈ろう。いや、その娘ばかりでない。この災害で親を亡くしたすべての子どもが。子を亡くした親が。親しいものを亡くした者が。皆、心穏やかになれる日を目指し、私も王としての役目を果たそうと思う」
「クラウス、王……」
「アリアよ。君も私に力を貸してくれるな?」
僅かな間、アリアは深海色の瞳を見開き、クラウス王を見つめていた。
王はこう言ったのだ。
皇女がここにいることは聞かなかった。ただ、息子が助けた哀れな娘を救いたいというのならそうしろと。……それを許すと。
アリアはベンチから立ち上がり、ぐっと涙を堪えながら敬礼をした。
「はっ、クラウス王! この命、いつまでも貴方のために!」
そう言ったら、クラウス王は笑った。
「アリアの命はアリアと、そしてその家族のものだ。……大事にな?」
アリアはクラウス王の言葉を胸の奥で噛み締めた。
そして自分が命を捧げる相手は、やはりこの王であると。
この王のために死のうと、決意した。