空よりも高く 海よりも深く

2.家族のぬくもり

 世界中が寒波に襲われている現在、セルティア建国以来初となる薪と石炭の高騰が続いていた。

 それというのも、気温が低いからという理由の他に、太陽光で動力を得る『光動力』を広めようとする動きが活発になってきたからだ。

 公営機関やギルドで試験的に取り入れている、パソコンやタブレットなどの通信機器や、自動ドア、エレベーターなどに使われている光動力は、人と共存する精霊に影響を与えない動力として導入されたものである。

 しかし、本格的に民間に機械類を広めようとすると、それだけでは動力が足りなくなる試算結果が出ている。天候に左右されやすい、というのも問題だった。

 そのため、他星で取り入れている風力や火力による動力創出が提案されたが、今以上の森林伐採や資源発掘が進めば、自然破壊により精霊に影響が出てしまう。

 大災害を受けた民の心が一気に技術革新へと動いている現状、動力は欲しい。けれども精霊に影響を与えたくはない。

 それを打開するには、この星独自の動力を生み出さなければならなかった。

 しかしその研究には時間がかかるため、当面は生活基盤となる動力を火力で賄うことが決定した。

 木材と石炭の需要が高まったおかげで、国土の八割を森に囲まれ、石炭などの資源の埋蔵量が豊富なセルティアは財政が潤うこととなった。おかげで国王が打ち出したシェルター計画と軍備拡張が着々と進行しているらしい。

 だが財政は潤っても精霊に影響があるとして、国内での意見は賛否両論である。

 クラウス王は更なる悩みを抱えることになったが、この数年で緩やかに星が開いていくのを肌で感じてもいた。この流れには逆らえないだろう、というのが王の見解だ。





 そんな国事には一切関係のない、アストラ村のグリフィノー家では。

 大きな木のある庭の片隅で、フェイレイが白い息を吐き出しながら斧を振り上げていた。

「よい、しょっ!」

 斧をふり下ろせば、カコン、と小気味よい音を立てて薪が真っ二つに割れた。

 次の薪を平らな切り株の上に乗せ、少し離れたところに立っているリディルを見る。

「リディル、寒くなったらおうちに入ってていいんだよ?」

 リディルは赤いマフラーに顔の半分を埋め、毛糸で編まれたコートに包まれた身体を小さくして立っていた。良く見れば震えているのだが、リディルはふるふると首を横に振った。


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