空よりも高く 海よりも深く
「俺、もう父さんや母さんの後を追ってばかりじゃない。リディルもそうならなきゃいけないんだね」

「その通りだよ。……これはリディルのためなんだ。君はギルドで頑張る。リディルはアストラで頑張る。それが望ましいと、父さんと母さんは思っている。……フェイは、どう思う?」

 フェイレイは少しの間考え、そして頷いた。

「俺もそう思う。……俺、リディルが頑張るならもっと頑張らなきゃ。リディルにそう伝えるね」

「うん、頼むよ」

 ランスは優しく笑い、フェイレイの頭を撫でてやった。

 



「リディル、一日だけ、フェイと離れてみないか」

 風呂場では、アリアがリディルの髪を洗ってやりながらそう提案していた。

 フェイレイがギルドの養成学校に入るには入学試験を受けなければならない。セルティア支部までは馬車だと片道だけで五日はかかるが、アリアの権限で飛行艇を使えるので、一泊二日の行程となる。

 試しに一日。

 それで本当に駄目なら、入学を延期させてもっと時間をかけ、少ない時間から始めてみようとアリアたちは考えていた。

 だがやはり、リディルはふるふると首を横に振った。

「やだ……」

 今にも消えそうなか細い声に、翡翠色の目に浮かぶ涙。

 その姿を見ると話を進めることに躊躇いを感じてしまうのだが、ランスの方でもフェイレイを説得しているはず。説得は同時にしないといけないだろうと、アリアは踏ん張る。

「フェイは今、自分の足で先へ進むために頑張ろうとしているんだ。リディル、お前のことを一番に考えて、強くなろうとしている。……それを応援してやってくれんか」

「……やだ……」

「そうだな。今までずっと一緒だったから、寂しいのだな」

 桶に汲んだお湯を少しずつ流して、髪についた石鹸を丁寧に、丁寧に流してやる。そうすることでアリア自身も心を落ち着かせる。

「だがそろそろ、お前ももう少し、強くならねばならん」

 振り返ろうとするリディルの頭を少し押さえ、もう一度桶にお湯を汲み、泡を流してやる。

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