空よりも高く 海よりも深く
 フェイレイとメイサは筆記試験会場となっている一室へ入っていった。

 控え室で待っているように言われたアリアだが、勝手知ったる訓練場でジッと待っているのも退屈だ。丁度いいところに剣士養成学校の生徒たちが、正規の傭兵たちと実戦さながらの模擬戦をしている。

「相手をしてやるか」

 筋力が落ちないように毎日体力作りはしているが、最近は事務仕事ばかりで体が鈍っていた。少し体を動かしておこうと指導をしている教官に声をかける。

『セルティアの英雄』の登場に生徒たちは浮き足立ち、次から次へと相手を申し込まれた。アリアも嬉しくなり、ついはりきってしまい──。


「……アリア副支部長。相手は訓練生です。少しは手加減してやってください」

 訓練場に広がる屍累々とした景色を見て、剣士養成学校の教官に頭を抱えられた。

「何を戯けたことを言っているのだ! こら立てお前たち、無手の者を相手にこの体たらくはなんだ! その手に持っている剣は飾り物か! 魔族は手加減などしてくれんのだぞ! 命が惜しければ立てっ! 大体教官方も何を教えているのだっ。こんな実力で戦場に出しても無駄死にさせるだけだぞっ! かわいい教え子に無惨な最期を遂げさせる気か! もっと死ぬ気で訓練に当たれええええええ!」

 さすが魔族との大戦で一騎当千の働きをした英雄は違う、とその場にいた者たちは恐れ慄いた。


 アリアの怒号はフェイレイの筆記試験が終わり、メイサに止められるまで続いた。




「このままでは『アリア副支部長、訓練場及び各種養成学校の出入りを禁ず』なんて言われてしまいますよ~。これから息子さんもいらっしゃるというのに~」

「すまぬ。ついはりきってしまった」

 反省の言葉を口にしながらも、今のままでは駄目だ、訓練メニューを見直す必要があるな、などと考えながら別の訓練場へと移動。

「ところで、筆記試験の出来はどうだった?」

 隣を歩く息子に訊いてみる。

「うんと頑張ったよ!」

 と、きりっといい顔で返事をしたフェイレイだが。

「その場で採点しましたが~……一年生(5歳児)レベルですねぇ。入学したら実地訓練と平行になりますから、もう少しお勉強も頑張りましょうね~」

 メイサの報告に、アリアは鬼のように鋭い視線を息子に投げた。

「貴様、五年生だろうが」

「えへへぇ?」

 ごちん、とフェイレイの頭に拳骨が落ちた。


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