夏彩憂歌
「みくちゃん」

「ん?」

おばあちゃんがあのくしゃくしゃな笑顔で縁側から部屋の中を覗きこんだ。

裏の畑で取ってきたトマトやら名前をよく知らない野菜やらを、背中に背負った籠にたくさん入れてる。

麦藁帽子がすごく良く似合う、大好きなおばあちゃん。

「お腹すかへんかね?頂き物のお菓子が冷蔵庫に冷えとるよ」

「ありがと。でもいいや」

「そう?スイカも冷えとるよ。ほれ」

縁側の向こう側には小さな池があって、そこには色とりどりの鯉たちが泳いでる。
池の真ん中には小さな2メートルくらいの橋まであつらえてあるんだ。
人工の池らしくて、水を浄化するポンプがいつも動いてる。

おばあちゃんちでは、スイカはこの池で冷やすことになっていて、今日も池の中にまぁるいスイカがぷかぷかと浮かんでいる。

「うーん、今はいいや。太りたくないから、あんまし間食したくないの」

悪いなぁと思いながらも、ちゃんと言わなきゃ。
こないだまた1キロ増えちゃったんだもん。

おばあちゃんは少し寂しそうな表情になってあたしを見た。

「みくちゃん、全然細いやないの。そんなこと気にしとったらあかんよ」

そんなことを言われても、体重計が示す数字というのはどうしても現実としてあたしの頭に刻まれてしまう。気になって仕方がない。

「ごめん、おばあちゃん」

おばあちゃんは背中からゆっくりと籠を下ろして、池のそばに置いた。

「みくちゃん、おいで」

縁側にゆっくりと腰掛ながらおばあちゃんはあたしを呼んだ。

一枚だけ身に纏ったお気に入りのギンガムチェックのワンピースを翻して、あたしはおばあちゃんの横にゆっくりと腰掛けた。

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