夏彩憂歌
月を見上げるたび、俺は思い出す。

――あのひとを思い出す。



「ユウ?」

エミリがブロンドの髪をかきあげながら俺の顔を覗き込む。

「何?」

顔を反対側にそらしながら、冷たく返す。
彼女が傷ついた目をするのを知っててそうする。

「元気がないわ……それに、いつもより、多い」

灰皿の中の吸殻に視線を滑らせながらエミリは言った。

少したどたどしい英語。
Rの発音が下手な、フランス人らしい発音。

「こんな夜は吸わずにいられねーんだよ」

独り言のように小さく返す。

「こんな夜?」

「月が、綺麗だ」

エミリは小さく頷いて、フランス語で呟く。

「C'est bon...」


月を見ると、嬉しくも悲しくも思えたりする。

忘れなければならないあの人を思い出す。

きっと彼女はもう俺のことなんて忘れてる。

月を見上げて俺を想うことも、なくなっただろう。

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