夏彩憂歌
何よりもつらかった、あの別れの日を思い出す。


彼女は泣いてた。

震える声で、震える肩で、それでも一生懸命、笑おうとしてた。

必死で我慢して、今にも泣きそうな表情で、唇噛み締めて。



甘えてばっかりだった。

だってあいつしかいなかった。

俺が心から話せるひと。

俺が心から笑顔になれる人。

俺が心から愛せる人。



泣きながら、喉から掠れた声を絞り出して、彼女が口にしたのは「ずっと一緒にいたい」の言葉だった。

嬉しかった。

でも叶えてやれなかった。

俺はここに、アメリカに、来てしまったから。


大事な人を、日本に置いて。


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