まっすぐに
会えなくなっても
「久しぶりだね。宮本さん。まさか宮本さんから電話をくれるなんて思っていませんでしたよ。元気にしてましたか?」

電話から、懐かしい声がした。
(鈴木さんは相変わらず優しい声だ。)
洋子の不安な気持ちは少し和らいだ。

(そう、いつもこの声に助けられていたのだ。いつも優しく声を掛けてくれて、微笑みかけてくれた。自分が落ち込んだときに必ず隣に鈴木さんがいてくれた。)

洋子がいろんな考えを巡らせているうちに鈴木が沈黙を破った。

「会社、辞めたらしいね。」
「はい。すみません、結局私は約束を守れませんでした。」
「いいんだよ。僕の方が先に裏切ったんだ。宮本さんのこといえたもんじゃない」
「…」
「もし、よければ僕の所で働かないかい?僕も、今の会社で結構上の立場にいるんだ。だから、宮本さんのことだって、根回ししてあげられる…」
そう言い終わらないうちに洋子はかきけすようにいい放った。
「鈴木さん、私はいいの。お願い、戻ってきて。あなたが居なきゃ駄目なの。社長は、あなたが居なきゃひとりぼっちなの…」

「…」
「…あなたは、やっぱり、ハルが好きなんですね…」
「そのお願いの電話だったのか。ははは…なんだ…」

長い沈黙。

「懐かしですね。いろんなことを思い出しましたよ。宮本さんが初めて会社に来た日のこと…あの時は大変だった。あなたはまだ小さなお子さんがいて、子供嫌いの女嫌いのハルは宮本さんを雇いたくないと言ってたのに…」
「不思議なものです。私もハルもあなたに会って人生が変わってしまった。」
「…ごめんなさい」
「それで、宮本さんはこの先どうするんですか?」
「私は、もうホープ・クリエイティブには戻れませんけど、いつか必ず、夢を叶えます。鈴木さんと社長の意志を継いで」
「僕もだ。3人離れていても、ホープ・クリエイティブの精神は忘れない…」
「宮本さん、あなたは居るべき場所に戻るべきよ。もう、私も居ないのだし…」
「あの日に戻れればなー」

大変だったけど、がむしゃらに、同じ時間を過ごせたあの日に…




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