まっすぐに
宮本洋子、35才。2児の母である。
長女、かんな、8才。小学2年生。
次女、あきら、2才。
結婚するまで、システムエンジニアとして働いていた。同じ会社で働いていた同期の夫の友紀と結婚、かんなが産まれると同時に退職した。
マイホームを購入した。ローン返済の為にかんなが幼稚園行っている間にスーパーでアルバイトをした。
6年置いてあきらが産まれた。
何も不満などない幸せな日々だった。

平凡な毎日に、洋子の気持ちは焦っていた。
体の中の炎が燻っていたからだ。
洋子はこの炎をもっともっと大きく燃やしたいと思った。命を燃やしたい。人生を輝かせたいと思った。


「ねぇ、ともくん。私、働きに行こうと思うんだけど。」
「いいんじゃない。」
「今日市役所でね、保育園の冊子貰ってきたの。どこの保育園がいいかな?」
「あきら、保育園に預けるの?かんなみたいに幼稚園に通わせなよ。スーパーのバイトでいいじゃん。」
「スーパーじゃ駄目なの。私は前みたいにシステムエンジニアとして、何かを生み出す仕事がしたいのよ。」

「仕事より、子供だろ?育児の時間割くような仕事は辞めろよ。可哀想じゃないか、こんなに小さいのに母親が近くにいないなんて。それに、俺だって同業者だし、大変なのはよく分かってるよ。俺も忙しいし、洋子が無理して体調崩さないか心配なんだよ。」

まくし立てられるように言われて、洋子は口をつぐんだ。

(男の人はいいよね…自分の為に生きられるんだから。)

洋子は友紀の職場での真剣な、誠実な姿を見て好きになった。仕事が好きで情熱を燃やしていた。洋子もそんな友紀を支えてあげたいと思った。友紀は残業も多く帰りが遅かった。出張も多かった。単身赴任で何ヵ月も家を空けることもあった。
だが友紀は家に居るときは良き父親だった。子供の面倒も良く見てくれ、どんなに疲れていても休日は家族を遊びに連れて行き、家事もしてくれた。

なんの不満もない夫。可笑しなことに洋子は友紀に嫉妬していた。友紀が輝いて見えたのだ。

(子供が居なかったら…)
洋子は首を振った。こんな酷いことを考えてはいけない。

家族がいるから頑張れるのだ。
私は、家族も大切にして、自分も大切にする。それが私の生き方だ。
そう思い直しても、心に穴の空いたような、孤独感を拭いきれなかった。
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