まっすぐに
洋子には、夫には話せないことも、気兼ねなく相談できる人がいた。大学時代の友人、佐藤由佳理だ。
35才とは思えないくらい若々しい艶のある肌と髪、背もすらっと高くて、出産を経験した洋子とは違う体型だ。生き生きとしたオーラが漂っていた。既婚だが子供はいなかった。仕事はせず、ヨガや陶芸など、趣味を満喫している。

洋子はため息混じりに話を切り出した。
「旦那は私には子育てして、空いた時間にスーパーのアルバイトしてればいいっていうのよ。私のやりたいことになんか興味ないのよ。」

由佳理は驚いた顔をして言った。
「洋子は働かなくても大丈夫だよ。どうして働くの?マイホームもあって、子供が二人もいて、なに不自由なく生きられるじゃないの。それに、洋子が働くようになっちゃったら、今みたいにお茶したりできなくなっちゃうわね。」

洋子は苦笑いした。胸がちくっと傷んだ。

「ごめん、洋子。そういう問題じゃないわね。それより、私ね、この前パリに行ってきたのよ。お土産~。」

包みの中にはお洒落な箱に入ったチョコレートと、エッフェル塔の絵はがきが入っていた。今にもパリの匂いが香ってきそうだ。子供も居なく、好きに出掛け、遊ぶ由佳理が羨ましく思えた。だが、洋子にはそれが叶わないことも分かっていた。そして、由佳理とは違う幸せを見つけるんだと強く思った。

「わー、いつもありがとう。私は貰ってばっかりで。うちは小さな子供がいるし、住宅ローンもあるから海外旅行に行く余裕なんてなくて。」
「私だって、子供がいたら旅行なんて行かないわよ。うふふ、発表したいことがあります。私、妊娠したのよ。」
「え!おめでとう!予定日はいつ?」
「8月なの。仕事忙しくても赤ちゃんに絶対会いにきてね。」
洋子は由佳理が就職に反対していると思っていたので、驚いた。最後には味方でいてくれる親友を持ったことが嬉しかった。
「勿論!」
洋子の喜びが由佳理にも通じたのか、由佳理はしみじみと言った。
「私達、結婚して、洋子には子供が出来て、お互い違う生活送っているけど、こうして友達続けられてて凄いわよね。」
「そうだね。大学通っていた時みたいに無邪気ではいられなくなったけど。」
由佳理は湿っぽくなった空気を明るくするように言った。
「いつも応援してるわ。洋子。就職活動頑張りなさいよ。」
「由佳理も、由佳理と赤ちゃんが無事であることを祈ってる。赤ちゃんと会える日を楽しみにしてるね。」
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