まっすぐに
「いらっしゃい、さあ中に入って下さい。」
洋子が後ろを振り返ると、スラッと背の高い爽やかな男性がニコニコ笑って立っていた。
この突然平屋から出てきた男に比べれば好印象ではあったが、ワイシャツにカーディガンを羽織って、ジーンズを履いて、買い物袋を下げているという、とても会社員には見えない格好をしていた。

「こんなおんぼろの家からハルが出てきたら誰だって逃げ出したくなる。不審者にしか見えないからね。」爽やかな男性はそう言ってニコニコと笑った。

「ふん!」
不審者のような男は、無愛想にそそくさと中に入っていった。

「すみませんね、宮本さんがこんなに早く来ると思ってなかったので、ちょっと買い物に行ってました。どうぞ中に…」

軽く背中を押されて、洋子の足が進んだ。この爽やかな男性を見て気が緩んだのか、騙されているのか…

「どうぞどうぞ…」そういいながら爽やかな男性は散らかった靴をざっと横に避けて、洋子の足の踏み場を作った。
(この人が社長さんかな…とても気がきくし、ニコニコ笑ってて、とても感じがいい。)

玄関を入るとすぐダイニングがあって、流しの中が見えた。洗ってない皿やらカップラーメンのゴミやらが貯まっている。
(ゴキブリがいそうだな…)
「こちらへどうぞ」
襖をへだてて、居間と思われる所が仕事場になっていた。
パソコンデスク2台が左手壁側に置かれていた。右手にはちゃぶ台がちょこんと置いてある。6畳の狭い空間に詰め込まれていた。

「こちらに座って下さい。」
爽やかな男性はべたんこになった座布団を差し出した。洋子は座るしかなかった。

手前のパソコンはとても整理整頓されて綺麗だった。奥側のデスクはというと、デスク周辺の床に書類が積み上がり、仕事のものを置くべき所に、何かのゲームのフィギュアが所狭しと置かれていた。

洋子に後悔の念が押し寄せた。
(ここまで来てしまったけど、ちゃんとお断りしてから帰ろう…)
目の前には、長髪の男が、腕を組んで黒縁メガネさえも通す、鋭い眼光で洋子を睨み付けていた。

「お前がこんな女を雇いたいなんて言うから…俺は反対なんだぞ。」

洋子が断わる言葉を言う前に、長髪の男がこんな事を言ったので、洋子は面食らった。
(こっちだって、こんな汚い職場は願い下げよ!そんな愛想悪い人となんか一緒に働けない。)

「まぁまぁ…、まずは自己紹介しましょう。ね、社長。」
(しゃ…社長!この長髪髭面が!?)
「藏森晴彦。ホープ・クリエイティブの社長、というか単なる個人事業主だけどね。俺が開発の全てを担当している。」

「えええ!!!」
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