淡く儚い恋物語 Ⅱ ~貴方との夢~







ーージャリッ









「久しぶり、お母さん」








『瀬織家之墓』

そう書かれたお墓の前で手を合わせる









「…こんなに早くまた来れるなんてね…」











悠雅がお花を変えてくれている間、私は汲んできた水を掛け流す










水が無くなりもう1度手を合わせて目を瞑ったのと、悠雅が線香に火をつけて立ち上がったのは同時だった











「ご挨拶が遅くなりました」








「……」









私に言ってるんじゃない







真っ直ぐお墓に向かって頭を下げる悠雅











「澪さんと籍を入れさせてもらいました。

碓氷組の若頭という肩書きをもっている俺の言葉にどれほどの信用性があるかは分かりませんが…



澪は必ず幸せにします。」










「……っ」








こんなに饒舌で礼儀正しい悠雅が見られるなんて…



お母さんすごいね













「お母さん。


私ね、悠雅と出会えてから幸せだらけなのよ


お兄ちゃんもね、きっと悠雅がいなければ元に戻れてなかった


優しいお兄ちゃんに戻れなかったと思う。


今の私には悠雅しかいないの。
悠奈と真緒っていう宝物にも恵まれた。

これ以上の幸せがあるなんて考えられないけど…
だけど、悠雅が傍に居てくれる限り私がここに来て泣くことは無いと思うから


だから、これからも見守っていてください。」













すらすらと口から漏れた言葉に偽りなんて一切ない








少し驚いた表情の悠雅に微笑みかけると、グッと腰を引き寄せられ










「褒めすぎだ、アホ」









その広い胸にすっぽり収まった











「また来るね」







そう言ってお母さんのお墓から離れたのは、そこに来て30分くらい経った後だった










幸せボケしていた私達は、平和すぎたせいか油断していたのかもしれない










黒澪を引退しても、最近争いごとがなかったからと言っても、一般人と同じ生活をしていても……










世界のトップに立つ『碓氷組』の一員


ましてや、悠雅はその「若頭」という事実は変わらないんだ









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