嘘つきの恋煩い
「あの」

「なに?」

「自分の教室に帰ったらどうですか」

先輩は登校してからずっと私の机に座っていた。
私の席は一番後ろ、しかも角という最高位置だ。


そろそろ朝のホームルームが始まる時間なのに、帰る素振りを見せない。

「ちぇ、また会いに来るからな」

心底残念そうに教室から出ていく姿を見て、私は溜め息をついた。
そして読むつもりも無い教科書を顔の前に立てた。
ほんのり赤くなった頬を隠すように。

すると教科書と私の間に大きな手が割り込んできた。
驚き見上げた私の顎を掴み、暖かいものが唇に触れた。

「忘れ物。じゃ、またな」

先輩は手をひらひら振りながら今度こそ教室から出ていった。
教科書のおかげで誰にも見られていないと思うが、心臓に悪い。


はじめて、だったのにな。

ちゃんと付き合っている訳ではないのに。
昨日初めて会ったばかりなのに。

何でこんなことが出来るんだろう。
女馴れしてるのかな。

そんな事を考えると胸がチクチク傷んだ。
やめよう、考えても仕方ない。
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