蜜愛フラストレーション
そして内ポケットからカードキーを取り出し、ドアに近づけると電子音とともに解錠された。
その扉を勢いよく開けると、佇む私の背中をドンと強く押す。怪力につんのめりながらも耐えると、すぐ後ろでドアが閉まる音が聞こえた。
簡略的な彼女に呆れながら顔を上げる。だが、視界に入った人物を前に私は言葉を失った。
「大丈夫?」と苦笑しているのは紛れもなく、優斗その人だ。
そのスーツ姿も職場で視界の端に捉えていたもので。これが現実だと知らしめてくれる。
「……どうして?」
「どうしても会いたかったから、ユリアに頼んだ」
そう言って微笑んだ優斗は、私をそっと抱き締めてくれる。
会いたかったのは、私だけじゃなかった。この事実が疲れきった心を宥めてくれる。
トクントクン、と規則的な鼓動音が聞こえる中、爽やかな彼の香りが鼻腔を掠めていく。
「大変な思いばかりさせて、本当にごめん……」
ひどく後悔に滲んだ声色に頭を振る。潤み始めた瞳から大粒の涙が零れ落ちていった。
優斗を信じよう。信じているから、大丈夫。特に最近は、呪文のように心の中で唱え続けていた。
解決するべき件と新プロジェクト、その状況で五十嵐さんが現れて、松木さんのこともそう。
我慢を重ねた心は慟哭を上げていても、表面上は笑うことしか許されず。ましてヘルプも出来ない自分が歯痒かった。
「……寂しかった、……っ、」
目の前のスーツをキュッと掴みながら、絞り出した感情はこのひと言に凝縮されていた。
プライベートで優斗に会うことも難しくなり、電話で何度会いたいと口にしかけただろうか。
ユリアさんたちに助けて貰っている今、ひとりではない。けれども、心の空洞は大きくなるばかりだったから。