蜜愛フラストレーション


しかし、気合いとは裏腹に食欲はなくなり、睡眠もろくに取れず夜中ベッドでぼんやりと踞るように。

友人や家族、社内や取引先からの連絡にまで、警戒心が働いて。その度に、疑り深い自分に嫌気がさしていた。

精神的に追いつめられた結果、心身ともに疲弊。仕事と優斗に会う時間以外、家に閉じこもっていた。

変化を感じ取っていたのか、彼女はそこで攻勢に入った。脆弱な心に優斗への不信感を植えつけたのだ。

その少し前から、優斗には『何があったのか話して欲しい』と何度も聞かれていた。

それでも当時の私たちは、思い遣り方が間違っていたことも、時期が手遅れであるとも気づけず。

蛇のように忍び寄る五十嵐さんから留めをさされることになった。——優斗と寝たから、と。


満身創痍の状態で受けた、彼氏を寝取った宣告。限界を迎えた私の心は、ついに大きな音を立てて砕けていくのを感じた。

すぐに優斗を問い質せなかったのは、すでに不信感が心で育っていたから。それでも、彼女に何も言い返せなかったことが悔しかった。

裏切られたことに打ちのめされた私は、孤独と絶望に苛まれて。その夜はスマホの電源をオフにして泣き明かした。

翌朝、少し落ち着くと、事実を知りたいと思うようになり、意を決して彼の家を尋ね、話を聞くことにした。

すると、昔付き合ったのは形だけ、浮気なんてあり得ない、と淀みなく言い切った彼。


しかし、精神的に疲れきって、すべてに疑心暗鬼だった私は、彼の話や想いが届かず、怖いほど心が冷えているのを感じた。

この瞬間、プツンと自分の中で張りつめていたものが切れて。気づけば、深くを追求しないままに別れを告げていた。

いま思えば、あまりに子供だましな浮気宣言だったのに。私はすっかり五十嵐さんの罠に嵌まっていた。

“優斗のため”を免罪符に、苦しい現状から逃げようとしていたのに。彼はそんな私を必死に繋ぎ止めてくれたのだ。

結局、離れられなかった私たちは、虚しく求め合う関係へと堕ちていった。


< 118 / 170 >

この作品をシェア

pagetop