蜜愛フラストレーション
すぐに自嘲する。なんて身勝手なのか、と。私は結局どうするべきなのか分からず、未だに逃げているだけ。
自らに飽きれながら突き当たりを曲がった刹那、背後から遠慮なしに伸びて来た。
そのまま近くのミーティングルームに連れ込まれると同時に部屋の扉が閉まり、無骨な手で遠慮なしに抱き締められていた。
同時にふわり、と爽やかなウッディの香りに包まれていた。この匂いはジョルジオ・アルマーニのメンズ用だと分かってしまう。振り向かなくても、声を聞かなくても、誰なのか気づいてしまうから悔しい。
何より不意打ちに動揺させられても、抵抗はしたくない。この温もりは、これから会う約束をしている北川氏だから。——ゆえに身じろぎもせず、無言のまま捕われてしまう。
「堂々と浮気?」
こちらの反応さえ読まれているのだろうか。低くて甘い声がこの静けさの中、無言を貫く私の鼓膜を揺らす。
だが、彼の吐息が項にかかったのも束の間、柔らかな唇がそこに押し当てられ、背後で感じる動きに思わず息を呑んだ。
チュッ、と吸いつく唇の動きにびくり、と強ばる身体は急き立てられるように、一気に心臓の鼓動を速めていく。
私の髪は下ろすと背中に届くほどの長さがあるので、勤務中は邪魔にならないようアップ・スタイルを基本としている。
しかし、今はそれが隙だらけだと言わんばかりに、リップノイズを立てながら剥き出しの首筋を辿って熱を帯びた唇が降りていく。