蜜愛フラストレーション


受け取ったペットボトルを開栓し、吸い飲みへ少し移す。何も言わずに用意してくれる彼女の細やかさには感謝するばかり。

昼食以来なにも飲んでおらず、すっかり口が渇いていて。飲み口から水を含んだ瞬間、ピリピリと口内に痛みが走り、顔を顰めてしまった。

「大丈夫?」

苦笑して何度か頷いたつもりが、どうやら表情は抜け落ちているらしい。反応から分かってしまう。

その後、付き添って下さっていた彼女も、夕方近くに鈴ちゃんとおばが病室に到着したところで会社へと戻って行った。


なんでも鈴ちゃんのもとへ百合哉さんから連絡が入り、話を知った稲葉さんがすぐに向かうように言ってくれたそうだ。

百合哉さんはきっと入院手続きにも保証人が必要なので連絡を入れてくれたはず。課長との連携も然り、抜かりのなさには毎回感服させられる。そして稲葉さんにも感謝だ。

さらに両親にはおばから連絡を入れたといい、明日の朝イチにはこちらへ来るそうだ。

周囲に隠しておくつもりが、本人の知らないところで話が大きくなっている。……収拾がつくのだろうかと不安になってしまうが。

かくして入院手続きを済ませたおばは、ひとりで着替えや洗面用具を買いに院内のコンビニへ向かった。

病院特有の静寂の中、傍らの椅子に腰かけた鈴ちゃんは今にも泣きそうな顔をしている。


「萌ちゃん……今は休んで。ね?」

鈴ちゃんの勤める企業はちょうど決算期。その時期の経理部の状態は同期の話で多少は知っている分、申し訳なくて堪らない。


「ていうかね、輝と涼子ってばひどいんだよ!?私がいないほうがはかどるとか、ほんと失礼だから……!」

わざと茶化して言う彼女は、あの頃の私を笑わせようとした時と一緒で。やっぱり、“また同じ顔”をしているのだろう。

迷惑ばかりをかけてしまう心苦しさを隠すことも出来ず、どうにか頷く。それでもペンを握ると、まっさらな紙にこう記した。


“鈴ちゃん、いつもごめんね。でも、今度は大丈夫!私なりにだけどね、最後まで戦うから”と。


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