蜜愛フラストレーション
使い物にならない喉元に手を置く。……分かっているのに、焦りと苛立ちに視線を落とす。
診察では外傷はなく、心身症の可能性が高いと女性医師に言われている。詳しい診断は明日以降にくだるらしい。
思い出して唇を噛んだ時、膝に置いていた手を握ろうとした彼に虚を衝かれて顔を上げる。
控えめにかけられるその力が、些細な変化も見逃さないと告げているから。すぐに私は骨ばった指先をキュッと握り返した。
——優斗だから怖くないよ?ありがとう、私も大丈夫だから。でも、……ごめんね。
喉の奥で塞き止められる感情に、苦い思いが立ち込める。それでも視線を逸らさずにいると、彼は微かに目を見開き微笑んだ。
「萌が謝る必要ない。謝らなくて良いって言っただろ?
ひとりで泣くのは止めてくれ。あと、ひとりで抱え込むとこもかな?……ちゃんと守るから」
その言葉が心を潤すように届き、何度も何度も頷く私の瞳からは涙が溢れていく。
そこで握っていた手を一旦離し、立ち上がった彼は静かにベッドへ腰を下ろす。
ギシリ、と小さくベッドのスプリング音が鳴り、私の頭を厚い胸へとそっと引き寄せてくれる。
ふわり、とウッディな香りが鼻腔を掠めていくと、彼のシャツをキュッと握った。
泣き声すら出せず、しゃくりを上げながら流れていく涙。そんな私の背に片腕を回し、トントンとあやすように撫でてくれる。
「明日は任せて?俺たちなら大丈夫。相手を追い込む材料は用意したから。
萌はもう頑張らなくて良いから、少し休もう?これからも傍で守らせて欲しい。もっと、頼ってくれ」
「っ、」
この瞬間、どうして何も言えないのだろう。一抹の悔しさを覚えながら、大きく頷き返すのみ。
今も消えない襲われた恐怖心と孤独感。それが付きまとう今は、心身ともに追い詰められていた。
けれども、自分の弱さと向き合って、怯える日々から抜け出したい。——枯れかけた心に栄養剤を届けてくれた彼や皆のためにも。
悪感情に縛られた心の鎖はまだ外れない。
それでも、絶望の砂漠を彷徨う中で優しいオアシスを見つけられた今夜。この畏怖の道から、いつか抜け出せる気がした。