蜜愛フラストレーション


パッションフルーツは日本ではあまり馴染みがなく、他のフルーツに比べて甘味も少ない。

最初は俺もどうなるのかと少し心配もしたのだが、ふたりは最後まで粘りこの形に仕上げてくれた。

紀村さんの説明を聞くと、ミスマッチに見えるのも手伝って顔を顰めた役員もいたが、いざ口に運ぶと表情は一変。

甘すぎず、最後まで食べやすい。健康志向の男性や、美意識の高い女性どちらにもニーズがある。発想が面白くてとても美味い。

そんな色よい声があちらこちらから聞こえてきた。

これまでに数多プレゼンをこなしてきたが、この反応にはいつになく嬉しさを覚えた。

俺が当初考えていたものより、味も見た目もはるかに良くなっている。同僚として悔しさを感じるほどの出来映えだ。

さらに女傑のプレゼンも完璧とあり、改善を希望する声も聞こえず。萌にこれを見せられなかったのが残念だが……。

「私は商品化して良いと思うが?」

そこへ聞こえてきたのは、これまで中央の席から動向を見守ってきた社長のゴー・サインだ。

その傍らに座る五十嵐専務は非常に不服そうに見えるが、特に反対をしなかった。

目障りであろう俺たちの提案を潰したいはず。しかし、全体の反応がそれを留まらせたようだ。


「さて、ここからは緊急役員会議を始めたいと思う」

すると、社長は穏やかな声で役員室の空気を刷新する。それに待ったを掛けるように、薄笑いを浮かべた専務が俺たちを見やる。

「ならば、“無用の者”たちは退出すべきでは?」

「いや、彼らは私の一存でここに留まって貰う」

専務の嫌味を見事に一蹴した社長が俺たちに目配せをする。——掃討作戦の始まりだ、と。

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