蜜愛フラストレーション
さらに役員がたに問いかける社長に、ひとりの役員がおずおずとこう答えた。
「……半年ほど前に株主総会で承認された、月花グループとの資本提携についてでしょうか?」
「その通りだ。増資した分を月花グループにTOB(株式公開買い付け)により買い付けして貰った。この件は契約もまとまり、上手くいっている。
我々にとっては中東に太いパイプを持つ月花さんの力添えで、今回のドバイでの進出計画が一気に進んだ。
一方、月花グループでは当社との共同開発など、双方にメリットのある提携となり感謝している」
そこで空木さんを見やると悪人ヅラをしていたが。社長の話に夢中の周囲にはバレていない。
月花とウチの資本提携は、社長の提案によるもの。この話がスムーズに進んだのは空木さんあってのことだが。
緊張感で覆われた室内は静まり返り、社長の言葉の続きを待っていた。
ふぅ、と小さく息を吐いた社長が再び話し始める。
「しかし、月花さんは“清廉潔白”が根底にある企業。大企業にもかかわらず、コンプライアンスも徹底していることは有名だ。
本日ここへ月花専務がいらっしゃった理由と、私が何を言いたいのか、これで理解して頂けましたか……?」
敢えて言葉にしなかった社長。しかし、勘の鋭い何名かの役員は察したようだ。
そこへ、社長の隣で凛として佇む百合哉がすかさず口を開いた。
「資本提携した企業のナンバー・ツーがこの体たらく。非常に残念ですね。
月花では今回の御社の一件を重く受け止め、専務ならびに加担した方を役員から外れるべきという、役員会での“意見”を伝えに参りました。
契約を交わした際、不都合のないようにと念押ししたでしょう? 契約後に発覚したこの一件によって当社もイメージダウンに繋がる。
この損害を御社はどう責任取るのか、それをこの目で見るために本日お伺いいたしました」
月花の専務は甘くない。そんな男の口元は、ニヤリと弧を描いて専務を一点に捉えていた。