蜜愛フラストレーション
しかも、彼女を介して、名古屋へ戻る途中の両親と優斗が電話で話したことを聞かされる。
お付き合いしている人はいる、と言ったことはある。ただ、その彼からプロポーズされたばかり。
日常が落ち着いてから正式に話を進めたいと、まだ互いの両親には伝えていないのだ。
どんな話をしたのか気になるけれど、今は気にするとことではない。ドキドキと逸る心を無理やり落ち着かせた。
紀村さんいわく、その優斗は役員会の件の処理があるので、こちらに来られるのは夜らしい。
大変な時に無理しないで構わないのに。忙しい彼に、さらに無理をさせていることが申し訳なかった。
そのうえ、自分のいないところで昨日の件などが急展開していて。その話こそ衝撃的だった。
「まあ、会社は暫くのうち騒々しくなるでしょうけど、それも一過性だと思うわ。だから、仕事のほうは何の心配もいらないわ。貴女は今、体を休めることを優先して?」
帰り際、そう言って微笑を浮かべた紀村さんに対し、私は頷くことが出来なかった。
皆が解決のために奔走していたのに、力になるどころかずっと迷惑をかけている。
何もしないことが得策だと分かっていても、心ではそれを上手く消化出来ずにいたから。負の感情に囚われたくないのに。病室のベッドで寝ている自分に苛立ちを覚えるばかり。
その間もずっと続く、頬と口の中の痛み。さらに言葉を発せないストレス。それらがさらにネガティブな感情を作り出していた――。
* * *
「声を失うと書いて、失声症というのだけど、この病気だと思います」
紀村さんが帰られてから一時間ほど経った頃。担当医の女性医師に呼ばれて向かったのは心療内科だった。
そこで女性医師から、昨日撮ったレントゲン等の検査結果とともに病名を告げられたのだ。
失声症は主に精神的なものをきっかけにして、突然声が出なくなる病気らしい。
治療には心理的ストレスを取り除くことが重要となる。私の場合は発症のきっかけが明白なのでカウンセリングも必要だとか。