蜜愛フラストレーション

しかし、ここでも恨めがましい視線など微笑でかわされてしまった。その顔からはどう思っているのか読み取れないのはいつものことだ。

本質の見えない北川氏、けれども優しい色をした茶の瞳の奥にある質の悪さは承知している。

仮にここで私が彼から離れようとする。彼は不穏な空気を察知して笑顔で囲い込むと、追い詰められた私が檻の中の動物になるのは必至。
さらり、と人の思考を読み取って逃げ道を封じるのだから始末に負えない。

「こんな時に何考えてた?」

チュッ、とリップ音を鳴らし、軽くキスをしてきた彼はそう言って僅かに唇を離す。
その低い声が少し掠れていて、この声音は何度聞いても心臓に悪い。
鼻先が触れ合うほどの距離感で答えを待つ彼を前にして、心臓の鼓動は速まり続けていた。

このままキスを再開したほうが精神的にはよほど良いのに、私の片頬に置かれた手でそれを阻まれている。
そのうえ、足と足の間を彼の膝で割り入られていたために捲り上がっているスカートのあたりの不埒な膝の動きに気づいた。

視線を落とすと案の定、スリット入りのタイトスカートは洋服の意味をなしていない。
即座に顔を上げた私はセクハラ中の犯人を睨みつけるが、手足の動きとは裏腹の爽やかな笑みを返されるのみ。

これはもう彼の足を踏みつける外ないと決意した瞬間、「何考えてたか言う気になった?」と耳元で囁かれてしまう。

「……セクハラ男の性格の悪さについて」

この人はやっぱり質が悪い、悪すぎる。こうして今回もあっけなく行動を封じられた私は、悔し紛れに返すと彼から目を逸らした。むくれた顔で負け犬の遠吠えよろしく状態だ。

「性格の悪さは認めるけど、こんな優しいセクハラでよく済んだなと思わない?」
「開き直りですか」

セクハラを肯定しながら太ももを撫でる彼に負けじと返せば、反論を続ける前にその唇を奪われてしまった。

「萌のエロさを前にして、待ては無理かな」

続きで首筋にもキスをした彼は、砂糖に砂糖を足したようなひどく甘い顔を覗かせる。——策士というフレーズがこれほど似合う人もいない。

そんな彼は唖然とする私の後頭部に手を回すと、固く口を結んでいる私の唇を食んだり舐めとるようにしてキスを落としてくる。

やがてその要求に根負けした私が唇に込めた力を解くと、なぜか彼はそこでキスを終えてしまう。緩急をついたこの焦れったさが、煩わしさと欲求を同時に焚きつける。

互いの息遣いが分かる距離で対峙し合う私たち。明らかに武の悪い私は、眼前にある扇情的な眼差しに囚われ、言葉が紡げずにいた。

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