蜜愛フラストレーション
今日は、ではなく。今日も、ダメだった。
緊張しきりのプレゼンを終えて味わうのは、今回も悔しさと惨めな感情で。どこまでも頭の固い自らを呪いながら無言で席に座る頃にはもう、次の者が雄弁に語り始めていた。
「今回、私が提案しますのは……」
その人は静寂に包まれるこの部屋を、どこかほんのりと甘さの漂う低い声で占有している。
聞き惚れてしまうようなその声音。けれど、今しがた辛酸を舐めた私にとっては苛立ちを呼び寄せるものでしかなく、負け犬の遠吠えと言われようが知ったことか。
惨めな感情に小さく息を吐きながら顔を上げると、先ほどまでいたところに視線を移した。
そこでは中央のスクリーンにパワーポインタを用いながら悠然と話す、ひとりの男性が今回もまた異彩を放っていた。
淡いグレー色のスーツに、ロイヤルクレストなるストライプと小さな紋章の入った小洒落たネクタイを合わせ、そのどこか気取ったスーツにも劣らない顔立ちがまた憎らしさ満点。
こげ茶の色味の髪をサイドへと撫でつけ、優しい茶色の瞳を持つ端正な顔は一切の隙を感じさせない。
ちなみにネクタイの詳細については、自称スーツ・フェチの同僚から得た大変無用なプチ情報だ。
どうであれ、これでも負け犬は発表内容にはきちんと耳を傾けている。そして悔しさとともに改めて痛感するのだ。
今回も隙を見せない彼の発案が通ることを。