蜜愛フラストレーション
ユリアさんが座っていた席までふたりで向かうと、私はその隣の壁際の席に着いた。
同じく椅子に腰掛けたユリアさんは既にお酒を飲んでいたのか、カウンターに置かれたグラスの中身が少ない。
さらに漆黒のハイヒールを履いた足を組み替えるさまは今夜も艶めかしい。
その足先だけでなく、ヘアメイクからネイルまで今夜も抜かりなく施されている。
隣に並ぶと己の女子力のなさを痛感するのだが、それも今さらというもの。
「ほんと肌綺麗ですよね。羨ましい」
暗がりの店内に映える美肌に感心しながら眺めていると、こちらに向き直ったユリアさんは私の疲れが隠しきれていない頬にそっと触れた。
その骨張った指先で撫でるように手を滑らせながら、残念な肌をジッと食い入るように観察するので苦笑するしかない。
「萌ちゃん、パックしたのいつ?インナードライ肌が改善してないわよ。この状態だと日常のケアすらサボってるでしょ?小じわになるからちゃんと手入れしてっていつも言ってるのに」
睫毛エクステでより長くぱっちりとした目をガッと見開いたユリアさんは、サボりの常習犯を的確に断罪する。
「やっぱりバレました?最近、夕方くらいに鏡を見ると小じわにファンデが入り込んでて。今夜こそ絶対ケア頑張ろうと思うんですけど、睡眠欲には勝てずです……はい」
「あー、髪までパサついてるしぃ。あ、枝毛!もう干物すぎる〜」
自嘲笑いを浮かべる私の髪をひと房掬いして呆れた声を出したのも束の間、傷んだ枝毛をこちらに見せてきた。
危機感はあるのに適当な本人に代わって、この悲惨な現状を毎回嘆かれてしまうとぐうの音も出ない。
会う度に容赦ない指摘と品定めをされるが、説得力のある容姿を丹念に磨き上げたユリアさんだからこそ干物は耳が痛いと感じるのだ。