蜜愛フラストレーション

ピリピリ、と肌を刺激するような殺伐感が室内に漂っていると感じるあたり、どうやら負け戦だと諦めたのは私だけではないよう。

そんな私こと、斉藤 萌(さいとう・もえ)は食品会社大手のGF食品で総合職、イコール社畜と社内で密かに呼ばれるうちのひとり。

地元の中部にある国立大学を卒業後、東京での研修を終えて配属されたのは、どういうわけかビジネス街に置く同所の本社だった。

私の野望では、名古屋支社に配属されたら次の異動までは実家暮らしで働くつもりでいたのに。気ままな社会人生活はすぐに白紙撤回となってしまった。

ちなみにGS食品では、結構な確率で社員の勤務希望地を尊重して貰えることが多い。

“部署は何処でも良いので地元で勤務したい”と、新卒が分不相応な希望を出したから?……うん、若さゆえのばか正直さが仇となったのか。

住み慣れた街である名古屋を暫くは離れたくなかったが、配属先が決定すれば、あとはもう縁遠い東京への引っ越し作業に移る外ない。

実家を出る寂しさはもちろんのこと、同じく入社直後の友人たちと別れを惜しむ間もなく。
ただひたすらに新居や手続きに追われるばかりで、あれこれネガティヴに考える性格の私は、新天地に来る前から早くもホームシックにかかり半泣きだった。


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