蜜愛フラストレーション


今でこそひどく曖昧な状態だが、私たちはかつて付き合っていた。——そう、過去形なのだ。

恋愛関係が破綻したあとは何かと理由づけて関係を引き延ばし続け、今に至っている。

付き合っていたあの頃。あることがきっかけとなり、優斗に別れて欲しいと告げたのは私。

どんなに好きで、愛していたって、耐えられなければ別れを選ぶこともある。

我慢を重ね続けて、精神的にも肉体的にも限界が訪れた当時の私は離れたいと望んだ。

あっさり片がつくと思っていた。

だが予想に反し、彼はそこで『もう一度チャンスが欲しい』と必死に願ってきた。

否、と首を横に降り続ける私に愕然としていて。その苦渋に満ちた声で懇願され続ければ、これはどんな苦行だと誰でも感じるはず。

最後には折れるあたり、やっぱり当時の精神状態は宜しくなかったのだろう。——判断を誤った、と今ならば思う。


「……ごめん、萌」

「謝罪の理由、は……?」

静寂の中で幾度も聞こえてくる、優斗からの謝罪の言葉。焦れたように理由を尋ねたものの、それはひどく弱々しい泣き声となる。

「決して許して欲しいわけじゃないよ。
あの時の自分が馬鹿だったって後悔と懺悔をした。いや、してもしきれなかった。
どれだけ過去を省りみても結局、俺が萌を傷つけた事実は変わらない。贖罪なんて言葉もおこがましいよ」

「……昔のことよ」


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