蜜愛フラストレーション


顔面の状態とこの状況と考えることは山ほどある。だが、根負けしてそれら一切を放棄する。慣れない高さと振動に大人しく身を預けることにした。

「たとえ萌が離れようとしても、俺から離れるつもりはないよ」

「ストーカーと思しき発言は止めたほうがいいよ。敢えて言わせて貰うと、“今度は”を付け忘れてますけど」

「嬉しい添削ありがとう。愛ゆえの衝動かな?諦めも質も悪い男だよな」

「へえ、一応自覚はあるの?尤もらしい言葉を並べ立てるわ、全て笑顔で帳消しにするわ。……本音を隠してるのはソッチのほうじゃない」

どんな場面でもやり込められてしまう。諦めたように俯き加減で溜め息をつく。

「やっと聞けた」

階段の中腹で立ち止まった彼がポツリと呟いた。そこで首を傾げながら見やると、穏やかな表情をしていた。

「突然なに?」

「萌の本音が聞けた、ってこと」

ゆるゆる、と頬を緩ませている彼。その声と顔つきはとても真面目なもので、失言ばかりの自分が恥ずかしくなる。

「……負け犬の遠吠えなんだけど」

「それでも進歩したから良いよ」

ふっ、ともう一度笑顔を見せた彼がまた階段を上り始める。そして数段上がって寝室に到着した。

ずっと抱き上げられていた私がやっと下ろされた先は、ふたつの枕が並ぶダブルベッドの上。

ベッドの端でまずパンプスを脱がされ、そのまま身体は程よい固さのマットレスに沈められた。


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