蜜愛フラストレーション
高さのある天井が視界に広がるものの、それもすぐに見えなくなってしまう。
代わりに身体に覆い被さるように乗る優斗の微かな重みと、やけに性急なキスが再び降ってきた。
仄かなお酒の香りと彼の香りに包まれたが最後。目の前の愛しい欲望を一心に求めてしまうとは救われない。
服も下着も躊躇いもなく脱ぎ去って。彼の齎す快楽に絆され、ナカから潤う水音が鳴り始める頃には、甘くねだる声が室内に響いていた。
今日また少し距離が縮まった気がした。けれども、ふたりとも、最後の最後で引いて完全には埋められず。——これでは牽制し合ったに過ぎない。
どこまでも好きで、どこまでも嫌いになれない。そんな人に、「好き」や「愛してる」とも紡げない私は中途半端で愚かな女だ。
優斗の手のひらで踊らされていることくらい分かる。聡い彼もまた、こちらの気持ちに気づいているだろう。
けれども、彼は行為に及んでいる時、私にそれら類いのフレーズを強要しない。
ただ、毎回こう尋ねてくる。——「まだ信じられない?」と、悲しそうに笑って。
たとえ上り詰める寸前であっても、私はにこりと笑い返し、目の前の口を塞いで答えを濁してしまう。
触れ合う唇から互いの熱と銀糸を分け合いながらも、肝心の言葉を打ち消す。その不可思議な状態も、いつしか慣れに染まっていた。
踏み込まない彼は私に対して負い目があって。どっちつかずの私も優斗にすべてを預けられない。——どんなに愛していても。
些細なものだった嘘も取り繕うほどに綻びを生む。一度ついた傷も簡単には癒えてくれない。
挽回しようと足掻いて、必死に努力すればするほど、そのぬかるみに嵌まってしまう。
いくら抱き合ったところで解決なんてしない。そう、何が必要なのかはどちらも分かっているのだ。
それでも、いい大人だからこそ、互いの心の核に触れるのを避けてしまうのかもしれない……。