蜜愛フラストレーション
但し、現時点で結婚に繋がるような浮いた話は乏しい。かといって、仕事に人生を捧げるには些か中途半端で頼りない立ち位置でもある。
誇れるものといえば身体の丈夫さだけというアラサーは、行くあてや目的もなく三十路行きの快速電車に揺られているようなものか……。
「萌さん、大丈夫っすか?」
灰色モードの現実を前にして遠い目をしていると肩をポン、とひと叩きされて我に返った私は顔を上げる。
今も発表が続いている中、周囲に遠慮がちな声で尋ねてきたのは、隣の席の後輩ことハルくんだった。
「顔、死んでますよ?」
「あー、うん。なんか色々、ね」
二歳下のハルくんの容赦なき言葉に苦笑して濁したものの、決して彼の発言を肯定したわけではない。きっと連日の睡眠不足により出来た、目の下の隈のせいだ。
「やっぱ、北川さんで決まりでしたね」
独りごちる私よりも先に発表を終えていたハルくんが前方を眺めながら言う。どこか諦めにも似たそのひと言で、私もそちらへと視線を移した。