蜜愛フラストレーション


上京したてでホームシック寸前の頃は、鈴の家族が何かとサポートしてくれた。

互いに本格的に忙しくなってからは会う回数も減ったが、“ほぼ姉妹”の間柄に変化はない。

「それで!今も同じくらい好きなの?」

私が話をすり替えても遠慮なく差し戻す彼女は、またしても身を乗り出して窺ってくる。

「うーん、好きって次元なのかなぁ」

疑問符のような口振りに、「つまり?」と先を急かされたので苦笑を浮かべる。

「分かんない。鈴みたいに誠実な相手だったらいいのにね。——で、稲葉さんは元気?」

「うん、今週は出張とかで不在がちだったけどね。このあと輝(ひかる)と待ち合わせてるよ」

「ほんとラブラブだよね。時間、大丈夫なの?」

「当たり前じゃん!萌ちゃん優先!」

「それ、稲葉さん本人には言わないでよ?」

「なにを?」

「恨まれるのは勘弁だから」

「誰に恨まれるの?」

「鈴の王子様に」

瞬時に頬を染めた彼女がお付き合いする稲葉さんとは、私も何度か顔を合わせている。

元々直属の上司という彼はその顔立ちも相俟って非常にモテるという。——私がよく知る、“どこかの誰かさん”とあれこれカブる要素が満載だ。


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