蜜愛フラストレーション


但し、稲葉さんはとても誠実である。というより、あの人は鈴しか目に入っていない。

天真爛漫な彼女のことが可愛くて仕方ないらしく、その溺愛ぶりには毎回当てられてしまう。

最早バカップルの領域かもしれないが、ふたりが幸せそうなので何よりだ。

「私のことはいいからっ!ねえ萌ちゃん、お願いだから自分を大事にして?
やけ酒……は無理だけど、やけ食いならとことん付き合えるからっ」

「じゃあ、その時はホテルのデザート・ブッフェかな」

下戸の鈴は自他ともに認める食いしん坊。大酒飲みの私と会う時は食べることに専念している。

「あれ、さっきの言い方だと良い意味に聞こえないよね!?誤解しないで!?」

「当たり前じゃん。分かってるよ、いつもありがとう」

マイペースなので事あるごとにタイムラグが発生する。こんなところも昔から変わらない。

程よい温かさになった中国茶を飲みながら、熱々の飲茶を美味しそうに頬張る鈴を見た。

優しさを誤解するわけもないのに必死に謝られると、ますます申し訳ない。

本人は不器用だと言うけれど、いつでも笑顔で何事にもフルスロットル。最愛の人に愛されてさらに綺麗になった彼女は、欲目なしに輝いている。

「……いいな」

「ん?この飲茶食べたかった?もうひとつあるから、はい」

呟いたひと言を勘違いした彼女は、自分のミニ蒸籠の中からひとつ取り出して私の蒸籠に入れてくれた。

「ありがと、だったら私のと交換」

「ほんと!?」

自分の蒸籠を差し出すと、目を輝かせながらひとつを選んだ彼女はそのまま大きな口を開けて食べた。

「美味しい」を連呼している彼女に続いて、私も貰った飲茶を口にする。


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