蜜愛フラストレーション
彼の言うとおり、今回も発表を終える前から結果は出ていたようなもの。しかし、出来レースでないのだから、圧倒的な実力差を目の当たりにしただけ。
隙のないプレゼン内容を示す手元の資料、それらを後押しするようなウィットに富んだ説明がなされ、果たしてこれで誰が太刀打ち出来るというのだろうか。
すると壇上に立つ、ひとりの男性——北川氏が朗らかな口調で発表を締めた。
その瞬間、この部屋の空気が、これで新作は決まったも同然といわんばかりのものとなる。
課長と係長に一礼して相好を崩した彼の名は、北川 優斗(きたがわ・ゆうと)さん。
院卒のために年齢は違うけれど私と同期入社の三十歳で、甘味部門第一グループの主任だ。
顔も態度も素晴らしく爽やかな独身の出世株とあれば、本社の女性人気が断トツで高いのも当然だろう。
北川氏がこれまでに提案した品々は、ヒットないし大ヒット商品ばかり。また、期間限定から定番化したものも数知れず。
その功績から社長賞も獲得しており、役員の皆さんにも目をかけられ、将来をとても期待されているという。
ただし、この商品開発部で日々生み出される案の中、熾烈な戦いを勝ち抜き商品化に至るのは砂を掴むようなもの。彼のようにほぼ結果に繋がるほど現実は甘くない。
無い知恵をひたすら振り絞って、ブームになりそうな食品や情報には常にアンテナを張り巡らせ、どうにか提案する案を生み出すのだから。
それでも、ようやく完成した案にはごみ箱へと捨てられる紙くずのような苦い結果が待っている。
とあれば、ヒットを連発させる北川さんは、もはやスイーツの神の申し子と言っても過言ではない。