蜜愛フラストレーション
掘りごたつ式のテーブル席に私と優斗が並び、ユリアさんは向かい側に着く。
ユリアさんの隣が良いと主張したら、今回も優斗に笑顔で却下される。静かに着席した私はやはり、押しとサプライズに弱い。
もちろん仏頂面で隣との距離を取った。が、徐々に距離を詰められ、最後はパーソナルスペースまで奪われて後悔する。
「ちょっと〜、暑苦しいんですけどぉ」
遠い目をして押し遣っていると、頬杖をつき揶揄を入れてきた彼女。ひと筋の光明に目を輝かせたのも束の間。
「不機嫌な萌が可愛いから仕方ない」
貴方はこの暑さで頭の中が蒸し風呂状態ですか、という雑言は心の中で言うに留めた。
「萌ちゃん、遠慮なく殴っていいよ?」なんて魅惑の言葉に従いたくもなる。
そこで戸の向こう側から声が掛かり、江戸前寿司が運ばれてきた。どうやら彼女が事前におまかせを頼んでいたらしい。
旬の魚を使った鮨は見た目に美しく、味も格別。口にすれば感動で言葉にならず、彼女に笑われてしまう。
車で来ている2人はもちろん、私も鮨を味わいたくて飲酒はパス。今回は珍しく全員がソフトドリンクで乾杯となった。
仕事の丁寧なコハダに舌鼓を打っていると、ユリアさんからここは馴染みの店だと教えられる。大将とも家族ぐるみの付き合いで、予約の取り辛いお店でも融通が利くのだと。
「……人をダシに使ったのか」
溜め息をついた優斗の視線が正面へと向くが、どこ吹く風といった様子でそっぽを向いてしまう彼女。
「いい?アンタが来週は仕事だって言うから、百合の花のように真っ白な心で今日に繰り上げたの。
それとも何?“可愛い萌ちゃん”と会えたこの恩をもう忘れたとか?うーわ、ありえな〜い。
裏事情を吐くと、来週ここで母親が友人たちと貸し切るのよ。ま、持ちつ持たれつってとこ」
そこで新たな握りたてのお鮨が到着し、ユリアさんは雲丹を選んで食べ始めた。
マイペースなようで計略的な本質がやはり格好良い。
相当な資産家という実家は知らないほうがいいよ、と優斗が前から言っていた。……つまり、何があっても彼女は彼女だと。
ただ喧嘩を挑んで敵う人はいるのか、と思案してひとり思い至る。しかし、目の前のお鮨に夢中の私は黙々と食べ進めていた。