蜜愛フラストレーション


おまかせコースに追加で好みの鮨を頼み、小鉢と茶碗蒸しに水物と食べ終えた頃にはもう満腹。

至福に浸っていたのも束の間、ここが高級店であると思い出し、血の気が一気に引いていく。

「萌ちゃん、なんか顔面蒼白じゃない?あ、今度はよろしくね〜」

微笑を見せるユリアさんは、優斗の誕生日の前祝いにと支払いを済ませてしまう。

私が気遣うと見越し、敢えて“次”と言った彼女には感謝するばかり。出来た女性である、本当に。

「悪いなユリア、ごちそうさま」

隣の優斗から声を掛けられ、彼女はそちらに視線を向けた。その顔に笑みを浮かべているものの、どこか含みもあり薄ら寒い。

「どういたしまして〜。その感謝の気持ちは私の誕生日に利子付けてよろしくぅ」

「海老で鯛どころか、伊勢エビで大間のマグロを釣るってか」

「やーだー、女の策略には既読スルーじゃないと〜。ねー、萌ちゃん?」

高らかに笑いながら彼女が同意を求めてくる。ただ、反応に困る質問は聞かないで欲しい。

苦笑いを浮かべていると、傍らの優斗から「どうした?」と気遣われてしまう。

「……うーん、上には上がいるっていうかね。
——実際に、甘エビで大間のマグロを釣っていた人のことを思い出しただけ」

「……は?」

「ちょっと何その話!教えてーー!」

反応の違いはあれど、続きを促されて話し始めることにした。——私がよく知る事案について。


< 61 / 170 >

この作品をシェア

pagetop