蜜愛フラストレーション
こうして何かにつけて仕事が絡み合う日常に疲れつつも会社に居座り続けている私は、結局のところこの毎日が嫌いではないらしい。
「あの人の頭ん中、覗いてみたいっすね」
「覗いても何も得られそうにないけどね」
「その割に萌さん、悔しそうっすけど」
淡々と返したはずが、くくっと肩を揺らして笑うハルくんにジト目を送る。……異次元なやつと張り合う気はゼロだと。
壇上にいる北川氏とはこの職場で働いてきたが、七年を経て、天と地ほどの差がついている。これがすべてなのだから。
どことなく不満げな表情のハルくんの相手は面倒だと溜め息をついたその瞬間、渦中の人物と目が合ってしまった。
しまった、と感じてしまったのはご愛嬌。しかし、こちらが先に目を逸らすのはいささか負け犬のようでしたくない。
不躾にもジーッと恨めしく視線を送り続けていると、壇上に立つ彼はほんの微かに口元を緩めた。
その結果、その些細な変化に動揺させられ、慌てて視線を落とす羽目となった。あまりに滑稽極まりなくておのずと重い溜め息が出た。
「萌さん?」
様子を伺うように声をかけてきたハルくんに向き直ると、曖昧な顔でへらりと笑ったが果たして誤魔化せたのだろうか。
そして、おそるおそる前方を再び見上げたものの、室内の空気を掌握していた彼は既に自席に戻っていた。