蜜愛フラストレーション
それからリビングに入ったところで、「何か飲む?」と聞かれる。
「あの、使っても良ければ私が淹れるよ?」
キッチンに立つ彼に近づいて尋ね返すと、頬に触れられキスをひとつ落とされる。
「もちろん勝手に使って良いから。よろしくね」
微笑んだ彼がその場を離れていくと、キッチンに残された私はシンクの前に立ちまずは深呼吸。
嬉しそうな表情を浮かべた優斗を見て、さっきは踏み込んで良かったと心からホッとしたのだ。
落ち着いたところでキッチンスペースを見渡す。——このエリアに入るのは、別れて以来ゼロに近かった。
私が近づかなくなった以降、ユリアさんが管理しているのは知っていた。そのため掃除も行き届いており不要物がない。
彼は室内のインテリアには凝っているがキッチンだけはシンプル。というより、料理をしないので調理器具には関心が薄い。
家電はいくつか変わっている物もあるが、配置換えをする気もなかったことは見て取れる。
この調子だと、一緒に買いに行っては集めていた食器類も当時のまま。興味がないところには無頓着なのも相変わらず、か。改めて実感すれば、変わらないことが嬉しい自分に気づく。
そして新調したばかりであろう、お馴染みの赤いコーヒーメーカーに手を伸ばした。