蜜愛フラストレーション
その傍らの小物入れから、一杯ずつ違うフレイバーのカプセルを選びセットする。
いい香りとともに出来上がったふたつのカップを手に、彼の待つソファまで戻った。
「カプチーノ、だよね?」
「当たり」と頷き、マグカップを受け取った彼は嬉しそうな顔を見せる。
ポンポン、と隣に空いた場所を叩くので、私は遠慮がちにその二人掛けソファに座った。
両手で熱いカップを持ち、ふぅふぅと息をかけ冷ましていたら笑い声が聞こえて顔を上げる。
「アイスのカプセルもあったのに」
「でも、さっきお鮨食べたし、ここも涼しいからね。年齢的に冷えは大敵〜……って、ユリアさんの受け売りだけど」
ユリアさんの声と話し方を真似すれば、「確かによく言うな、アイツ」と、くつくつ笑っている。
「そっちも変わんないね。“昼過ぎのカプチーノ”」
「あー、起き抜けと仕事中はブラックじゃないとなぜか能率下がるんだよなぁ。そのくせ飲み過ぎるとカフェインで夜寝れない」
「確かに寝起き悪いよねぇ」
「萌、それはブーメランだろ?」
「私は大丈夫。寝起きは悪くても寝付きがいいから相殺されるの」
「つまり俺は繊細ってことか」
「え?今なんか言った?」
互いに素早いツッコミ返しをしながらマグカップを傾ける。甘い香りの温かな飲み物が心も安らかにさせてくれた。
こんな風に穏やかなカフェタイムを過ごしたのは、別れてから一度もない。——私がこの時間を避けてきたからだ。