蜜愛フラストレーション


ウッディな香りが鼻腔を掠め、緊張感を募らせる。意を決して彼のシャツをキュッと掴むと、再び話し始めた。


「……確かに、当時は辛かったよ?でも、仕事で鍛えられた分は耐性があったみたい。
優斗からみると、信用してないって思ったかもしれない、それはごめんね。
——それでも、相手は元カノだから。……悪く言って優斗に幻滅されたくないとか、無意識に強がってたのかも。
そのうち相手が気が済めば嫌がらせもなくなる、って……そんなに簡単な問題じゃなかったのにね。
優斗がひそかに動いてたことを知った時は、対抗意識燃やしてた自分が恥ずかしかった。……その手段は許せなかったけど」

これまで口にしようとしても、喉で痞えて言葉に出来なくて。本音は胸の中にしまい込んできた。

「萌……」と、気遣わしげな声色が聞こえてくる。けれども、ここで止まるわけにはいかない。


「浮気の事実を自慢げに相手から伝えられた時の私、ほんとに奈落の底まで落ちたからね?
優斗から離れたくない。なのに、寝たことを元カノから聞かされて。え、この状況をどうしろと?って。
うーん、心は正直だよね。次第に優斗を避けてる自分に気づいたら、プツンと頭の中の糸が切れちゃった。
ああもう限界、疲れた……って、這い上がる気なんか起きなかったもん。
ご飯も食べられない、眠れない、笑えない……思い出すだけで、でら最悪っっ!っと、つい方言が。
——優斗に確かめて、ちゃんと事実を教えて貰ったでしょ?でも、その時には手遅れだったみたい。
浮気が誤解だって分かって……そっかと思ったけれど、それだけ。怖いくらい何の感情も湧かなかった。
相手に惑わされて自滅して。大切な人を信じきれなかった自分が許せなくて。結果、その大切な人を傷つけたのは私なのに……。
……ごめんなさい。一番苦しんだのは優斗だったのに、ずっと甘え続けて」

そこでその場を離れ、彼を仰ぐようにジッと見据えた。これまで過去から逃げ続けた私自身への戒めだ、と言い聞かせながら。


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