蜜愛フラストレーション


怠惰な自分に喝を入れて一歩進めば、臆病な心に負けてさらに二歩下がる。

そうして時間だけがいたずらに過ぎて、気持ちを隠すことが当たり前になっていたからこそ。

たったひと言伝えることも諦めて、近いうちに離れようとズルい道を考えていた。

「……でも、これ以上何も言わない。いつまでも過去に引きずられていたくないし、今日で最後にする。
だからね、優斗も言いたいことあれば言って締めない?——またイチから仕切り直しってことで」

されども、私の気持ちは優斗にあって。それは時間を経て強くなった。ゆえに今、大切な彼の隣でまた笑えるようになれたのだろう。


「こうして話せたのも、ユリアさんや鈴たちのおかげなの。私ひとりじゃ立ち直れなかったし、色々吹っ切れなかった。
皆に迷惑を掛けて、本当に良いのか迷う部分はあるけど……優斗、こんな私を好きでい続けてくれてありがとう」

きっかけも掴めずまごつく私の背中を、皆は後ろから容赦なく押してくれた。その思いきりの良い優しさに感謝してもしきれない。

おずおず、とだったけれども。意を決して思いをさらけ出せば、心の中を覆っていた無数の茨まで徐々に枯れていくよう。

漸くすべてを言い切ったその刹那、ポロリと大粒の涙が頬を伝う。ああもう、私はつくづく中途半端な女だ。


「……うん、捨てられて当然の男だったんだよ。
なのに萌の優しさにつけ込んで、みっともなく足掻いてごめん。……それでもあの時、どうしても離せなかった。
確かに、よそよそしい萌との距離を感じた。付き合ってた時みたいに戻りたかったし、その度に選択を誤った自分を愚弄したよ。
ただ同時に、萌の真面目さといじらしさが可愛くもあったかな。……ああ、本質は何も変わってないって。
だから本音を引き出すために、敢えて甚振るようなことをして悪かった。……いや、違うか。もう謝るのは打ち止め!
——ありがとう、萌。また一緒になってくれる決意と気持ちを伝えてくれて心の底から嬉しい。
あ、俺のほうが愛してるよ。……これからも、萌と一緒にいたい。……と、俺からは以上です」

俯きそうになりながらも、最後まで彼から目を逸らさなかった。泣きながら何度も頷く私の涙を拭う彼の優しさこそ相変わらず。

柔らかで安心する、穏やかな声が静寂に甘く響き渡るから。それがまた私に、どれほどの幸福感をもらたしてくれるのか計り知れない。


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