蜜愛フラストレーション


優斗の振る舞いを信じようともせず、中途半端な状態と彼の優しさに甘えてきたからこそ、ここで泣いてはいけなかったのに……。

そこで伸びてきた節ばった指が涙をそっと拭ってくれて。その優しさにまた涙腺が緩み、視界はゆらゆらと波打つように揺れていた。


「やっと言える」、そう呟いた彼がおもむろに立ち上がる。

頬を拭いながら首を傾げる私に、「ごめん、ちょっと待ってて」と慌てた声を残し、螺旋階段を駆け上がり行ってしまった。

がちゃがちゃ、と何かを探るような物音が聞こえてくる。それもすぐに止み、今度は階段を駆け下りる音が響く。

そのまま脇目も振らずに戻って来る。少し息を整えた彼は私の目の前に立ち、その場で静かに跪いた。

唐突な行動に虚を衝かれて、すっかり涙も止まった。慌てて立ち上がった私が止めるように言うものの、相手は頑として譲らず。

その視線がいつになく真剣なもので。ただならぬ様子の彼に呑まれてしまい、座り直すよう促された身体は再びソファに沈む。

今後を考えた時、このやたらと押しに弱いところは問題になるだろう。そんなことが脳裏を過る中、彼に呼ばれて顔を上げた。

ほぼ目線が同じ状態で捉えた眼差しには、先ほどとは違う硬質さを感じられて。つられるように私も居住まいを正してしまう。


「斉藤 萌さん、結婚前提にもう一度お付き合いして下さい」

「……へ?」

間の抜けた声を漏らす私に柔らかな笑みを見せると、そこで小さなビロードの箱の蓋を開けた。

その箱の中では、きらきらと光り輝く指輪が台座の中で鎮座している。

突然降ってきた言葉、そして目の前にある煌びやかな物。——これは一体、何が起こっているのでしょうか……?


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