蜜愛フラストレーション
姿の消えた壇上にどこか安心したその時、スーツに忍ばせていたスマホが振動し始めた。
そっとポケットからスマホを取り出し視線を落とせば、画面にはライン通知の表示が。すぐさまスマホを操作して内容を確認すると、自分でもみるみる顔が強ばっていくのが分かる。
その動揺を誘うには十分だったスマホを再びポケットに収めると、視線を泳がせながらも盗み見た先でラインを送ってきた張本人と目が合ってしまった。
内心で焦る私とは対照的に、スマホを手にしながらこちらを悠然と眺め見ている北川氏。——もとい目下、私のストレスの根源である。
視線が絡み合えば合うほど、心臓の鼓動は不規則なものへと変わって。まるで時間が止まっているかのように彼から目を逸らせなくなるのだから。
この瞬間はいつも何かが迫り上がってくるような苦しい感覚に苛まれ、それを堪えなくてはいけないと叱咤する。
そんな葛藤する私に、まるで包み込むように温かい彼の視線が向けられることもまた辛さを助長するのに。
その、真っ直ぐな茶色の瞳に囚われてから果たしてどれくらい経ったのだろう。周囲の喧噪が遠く感じるほど何も考えられなくなっていた。
やがて彼の視線が逸れた頃、壇上に立つ課長が締めの話をするのが聞こえてきたが、私はどうしてもすぐには切り替えることが出来ないでいた。