蜜愛フラストレーション
「女なんてこんなもんよ。そうよね、斉藤さん?」
「は、はい……」
有無を言わせぬ態度を前に、引きつった笑いを浮かべて必死に肯定する私。
女の上下関係は破綻させるべからず、これ社会の常識だ。
週明けから二次災害を瞬時に引き起こす彼に、始業前からどっと疲れさせられてしまった。
ふぅ、と聞こえないように嘆息して顔を上げると、隣のフロアの優斗と視線が合う。
週末は久しぶりに一緒の時間を過ごして、日曜の夜に車で送って貰ったから会うのは昨日ぶりで。どうにか顔を引き締め、未だプロポーズに浮き足立っているらしい心を戒めた。
ほんの僅かに口角を上げた彼。だがそれも一瞬のことで、彼は背を向けてフロアを出て行ってしまった。
新たなプロジェクトが始動したとあって、暫くのあいだ一緒に過ごす時間は作れないだろう。
それでも、今は何の不安もない。ただ、公私ともに支えられるよう、今は私に出来ることを精一杯務めたいと思っている。
「斉藤さん、ちょっと良いか?」
「はい」
課長に声を掛けられ、慌てて席を立つ。そのまま彼とともに空いている小会議室に入室した。
30代後半の課長と向かい合って座ると、冷静沈着な彼が早速用件を口にした。
「名古屋に戻るか?」と、あまりに予想外なひと言を。