蜜愛フラストレーション
てっきり、今日から始動するプロジェクトについての話だと早合点していた私。
目を大きく見開いたまま、続きの言葉を待つ自らの心臓は早鐘を打ち始めていた。
淡々と業務をこなし、時には非情なまでに物事を精査する課長。その手腕は社内でも有名だ。
かくいう私も、入社から現在まで、叱責と手厳しい指導を受けた回数はとても数えきれない。
低い声と無表情から繰り出される容赦なき指摘ばかりの毎日に、当初はもう辞めたいと家でよく泣いていた。
しかし、初めて案が採用された時、課長はまるで自分のことのように喜び褒めてくれたのだ。
さらに悩みを優斗に聞いて貰う度に、「課長のことは信頼してる」と彼は常々言っていて。その理由に漸く気づかされたことも懐かしい。
基本的に厳しい態度ではあるけれど、他部署や上層部から上手に守ってくれる。不測の事態にも真っ先に動いて手を回し、その対応力から部下の信望も厚い。
案外、輪の中にいると分からないもので。他部署や地方支社で働く同期たちから羨ましがられるほど、この部署の雰囲気は恵まれている。
部下の手柄を当たり前のように横取りしたり、パワハラによる心療科通いや休職に追い込まれた社員の多い部署も存在するのだから。
課長も実際に厳しいけれども、バランスに長けている。たとえ社内随一の厳しさと忙しさでも、人の流出が少ない理由はここにあると思う。
彼が私たち部下を信頼している証拠に、私でも早くから大きなプロジェクトにも参加させて貰えた。
確かにチームに迷惑を掛けたり、失敗だって数えきれない。それでも、やり遂げたという自信が糧になっている。
経験を積んで人は育つ、これが課長の教育方針。それを見事に体現しているのだ。