蜜愛フラストレーション


今回ハルくんは、和菓子推進プロジェクトに掛かり切りの蔵田さんのチームに入ることになった。

これは課長の指示で、普段ハルくんの指導役を担う私が名古屋へ行く場合の対処だと思われる。

結局ここに留まるのだから、私と同じチームで良いはず。それでも課長は指示を撤回しなかった。

追い込み段階で残業続きのチームは人手不足。しかも、自分がやったほうが早い派の彼女の抱える仕事量は増すばかり。

ハルくんは仕事はきちんとこなすので、良いケミストリーが起きると睨んでのことだろう。人体実験ですよ、と無敵の課長に言いたいが。


「蔵田さんは笑ったほうが可愛いですって」

「は?心底面倒くさい。あと10分で仕上げて。無駄口叩く暇ないの」

「蔵田さんのほうが喋ってますけど」

「ああ言えばこう言うの、本当に止めてくれる?……うぜぇ男だな、マジで」

自然体のハルくんと、真面目な蔵田さんはやはり噛み合わない。こうして、朝から彼女の苛立ちが半径5メートル以内に蔓延しているのだ。

最後のフレーズはハルくんまで届いていないと思うけれど、囁きが聞こえた隣人は即座に消えてしまいたい。

離婚を経験された頃から、彼女には男性不信のきらいがあって心配しているのに。……ハルくんのせいで悪化しないことを願うしかない。

するとそこで、「ねえ斉藤さん」と名指しされ、流れ弾が見事に的中。

すぐ返事をして隣に身体を向けたが、薄ら笑っている蔵田さんの目は怒りに満ちていた。


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