蜜愛フラストレーション
頭から一気に血の気が引いていく気分だ。この状況でとても笑い返せないし、顔が強ばりかけることに耐えながら彼女と向き合った。
「言葉遣いは指導途中だったの?」
「す、すみません……私の指導が至らず」
「ふふ、いいのよ。……頑張ってね?」
この場合、何の文句も言われないほうが恐怖が増す。よって、最後のひと言は余計に重みを持つのだ。
「本当にすみません。ありがとうございます……」
「いや、蔵田さん、萌さんは悪くないっすよ?教え方も良いし、優しい先輩なんで」
横槍によって、私は天を仰ぎたくなった。キミが対峙する女性の表情に気づいてくれ!
この場面で援護射撃はいらない。状況悪化の極みだ。……ああもう、空気を読めっ!
女性の機微について学べるところはないのか?彼には言葉遣いよりそちらのほうが急務だ。
仕事を円滑にこなすためにも先輩を立て、丁寧な受け答えに務めるのは後輩の初仕事だと思う。
社内ではどうしたって恨み妬みが生まれる。課長の目が光る課内では問題が起きていないが。
昨日の敵は今日の友、そんな言葉のようになるほど甘くない。よって、平穏無事にありたいのだ。
ハルくんも蔵田さんも大人だ、そのうち落ち着くはず。……ケミストリーによる大爆発だけは起きませんように、と必死に祈っていた。