蜜愛フラストレーション
そこへ私宛ての内線電話が入り、受話器を手にする。通話相手からの用件に了承の旨を伝えると、今も終わりなき戦いを続ける場を離れた。
再び気合いを入れ直し、フロアを退出した私は指定された場所まで足早に向かう。
そこは同じ階にあり、主にチームでの打合せに使う小さなミーティングルームだ。
部屋のドアの前に立ち、トントントンと扉をノックする。すぐに声が返ってきたのでドアノブに手を掛け、扉を静かに開いた。
「失礼します。どうしましたか?」
「とりあえずドア締めてくれる?」
「……失礼いたしました」
音を立てないように扉を閉めれば、まるで鳥籠に入れられた鳥の気分に陥っていく。
向き直ったところで目が合った相手から甘やかな微笑を向けられ、私の表情筋はヒクヒク引きつってしまう。
目の前の椅子を勧められたのでその席に着く。そこで息を整えて顔を上げると、改めて相手と顔を合わせた。
6畳ほどの広さにテーブルセットとホワイトボードが設置された空間はいささか窮屈だ。シンとした静けさも室内の硬い空気を強調していた。
「それで、なんで行かなかったの?」
涼やかな顔立ちをしている彼にはライトグレーのスーツ姿がよく似合う。しかし、さっきまでの柔らかさは霧散していた。