蜜愛フラストレーション

たったあれだけ、からかわれただけのはずなのに。彼の言動によって、寝不足で疲労もピークの身にはこんなにも堪えるなんて……。

【いつになったら信じてくれる?萌が嫌がらない限り、俺は諦めないから。
愛してる。これは変わらない。真剣だってことは分かっていて欲しい。
それで、今日会える?あの店でいつもの時間に待ち合わせしよう。だめかな?】

すべてから振り切るように顔を上げた私は、壇上の課長の話にようやく耳を傾け始めたものの、やはりラインの文面が頭から離れてくれない。

どろどろに溶けてしまいそうな甘い言葉を受け取る度に嬉しさの反面、自らの中途半端さが浮き彫りになる。だから、一歩も踏み込めないのかと自嘲するばかりだ。

ラインの返事にも、既読スルーを行使する私をいつも彼は咎めたりしない。
スマホをポケットに収めた時点で私の返事が了承したものだと分かっているから、毎回そう言って一笑する彼は優しすぎるのに。

これでも結婚願望はあるし、人並みの幸せだっていつかは手に入れたい。女性に優しいこの職場ならそれも難しくないだろう。
もちろん両親も結婚についてそれとなく聞いてくる事はあるけれど、口うるさく言われないのはありがたいとも思っている。

ただ婚活に勤しむ前に、出来れば恋愛結婚をしたいのが本音で。——その相手が目の前にいても踏み出せずにいるくせに、じつに情けない。

それでも売れ時のリミットがあるのは紛れもない事実。だからこそ、同じく適齢期の彼にも申し訳なく思っているのに。

好きか、嫌いか。彼への感情をこの二択で尋ねられれば、もちろん前者だ。嫌いとは嘘でも言いたくない。

ゆえに、今回もラインのトーク画面を名残惜しむようにまた見直してしまうのだろう。

それがひどく愚かで滑稽な行為だとしても。蜂蜜のようにとろりとした甘美な誘惑を断ち切る勇気は、未だ持ち合わせていないから。

< 9 / 170 >

この作品をシェア

pagetop