蜜愛フラストレーション
先ほど私を呼び出したのは、新プロジェクトのリーダーを務める優斗である。
しかし、和菓子部門と私と洋菓子部門の彼では部署が違うので、基本的に関わりは皆無。社内で当たり障りのない同期の間柄でいられたのもこれが大きいだろう。
その垣根を越えてまで優斗の下につくことになったのは、もちろん課長の指示だ。
「……斉藤さんの前回の企画書の一部を採用するから、今回は北川のプロジェクトに入って貰う」、と。
これは朝イチで投下された爆弾のうちのひとつ。話があらかた纏まっていたところに投じてきたのだ。
あの面白みがないと切り捨てられた和菓子のボツ案を、よりにもよって優斗の完璧な提案に加える。彼はそう言いたいのだ。
型式に嵌まった提案しか出来ない私がプロジェクトの一員になれば、異質物として浮きまくるのは明白。なにこの地獄……!
しかし、名古屋行きを断った私に退路はない。事前に根回しまで済ませてある手際の良さに前にして、小言さえとても口に出来ず。
普通に過ごせというミッションに、“ただし特例の状況下で”という指定が加わった。
もしかしなくても、名古屋こそ安住の地……!そんな邪な感情が脳裏を過り、でら帰りたくなったのは内緒にしよう。
「全力で守るために安全地帯に囲う、これは定石だね。……勿論、“合作”も期待してますよ?」
常に本音を悟らせない人ほど、人を陥れる瞬間を心得ているらしい。悠々とした微笑と対峙しながら、早くも今後を憂いたくなる。
使い古しの感謝の言葉を口にする私の目の前にはそびえ立つ壁、その高さはどんどん増していく。
今回の件を片付けるついでに私たちの真価も問いたいのだろう。……まずケンカはやめよう、ふたりとも。
手間を掛ける以上に得るものが多い。裏テーマまで伝わってきたのは、それを匂わせる態度を端々に見せられたから。
——容赦のなさは相変わらずな課長による、“人体実験もといケミストリー”第2弾がこうして決定したのだ。