蜜愛フラストレーション
手の大きさといつもの感覚に触れて、大きな不安と恐怖で満ちていたのだと気づかされる。
優斗がわざと突き放すような態度を見せていたのは、その場で残ると決めて後悔していないかを知りたかったのだろう。
「ただ……、無理はしないで」
「萌の言葉は絶大だ」
守って貰う立場で、“頑張って”とは口に出来ない私なりの精一杯。それに一瞬、面食らった顔で笑う優斗に眉根を寄せる。
「またはぐらかす」
「じゃあ、」と言葉を切った彼が立ち上がると、こちらまで歩み寄ってきた。
職場での立場ゆえつられて席を立てば、前方から伸びてきた手に腕を掴まれる。
不意の行動にドキリ、と鼓動が高鳴る私の顎先を捉えた彼は不敵に笑んでこう告げた。
「暫く頑張るためのパワーちょうだい」
「……ここで?」
聞き返す間にも距離はどんどん縮まり、唇と唇が今にも触れそうな中で眼前の茶色の瞳から目が離せない。
「俺の充電スタンドは萌しかないんで」
「ね、燃費悪いっ、」
ついに口を塞がれ、柔らかな感覚とともに甘く痺れるような感覚に包まれていく。
基本的に公私混同をする人じゃない。ゆえに箍が外れるほどの問題だ、と暗に告げていた。
勘づいたことも然り、きっと問題は私たちの件では済まない。そのため、課長は私を名古屋に遠ざけようとしたのだろう。
漸く気持ちが通じたばかりで寂しい。けれども、今は目先の感情に囚われている状況ではないから。
今度こそ、絶対に負けない。——互いの意思を確認し合うように、暫し唇を触れ合い続けていた。